『今日も何も起きないはずだったのに日記』

今日は、何も起きない予定だった。
予定だった、というのがまず良くなかった気もするが、少なくとも私は「無事に一日をやり過ごす」という低めの目標を掲げて起床した。
目覚ましは鳴った。私は止めた。ここまでは完璧だ。人類として最低限の勝利条件は満たしている。

顔を洗う。鏡を見る。
……誰だお前。
いや、私なんだけど。昨日の私より2%くらい「社会に向いてなさそう」な顔をしている。まあいい。今日は誰とも戦わない日だ。

朝食はパン。焼いてない。
焼く元気がある日は、だいたいその後で調子に乗るので危険だ。今日は「何も起きない日」なのだから、パンはそのまま食べる。
口の中が若干パサつく。これは事件ではない。想定内だ。

外に出る。
靴を履いた瞬間、左右が微妙に違う感触がした。
気のせいかもしれないし、靴下の裏表かもしれないし、私の人生そのものが左右非対称なだけかもしれない。
確認はしない。今日は何も起きない日だから。

コンビニに寄る。
レジで「袋いりますか?」と聞かれ、一瞬だけ思考が止まる。
袋は……いる。たぶん。
「お願いします」と言った声が、自分でも少し弱々しくて腹が立つ。
この弱さは事件か?
いや、日常だ。よくある。セーフ。

帰り道、信号が赤になる。
待つ。
青になる。
渡る。
――完璧すぎて逆に不安になる。
何も起きなさすぎて、世界が私を油断させに来ている気がする。

昼。
スマホを見る。通知はない。
本当にない。
ここまで来ると、逆に「何か来てくれ」と思い始める自分がいる。
だが、これは罠だ。何か来ると大体ろくなことにならない。
私は通知ゼロの画面を見つめ、「静寂」を摂取する。

午後。
特に書くことがない。
書くことがないことを書くしかない。
この時点で日記としては既に負けている気がする。

夜。
風呂に入った。
湯船に浸かった。
生き返った……というほどではないが、ギリギリ延命された感じはある。
今日一番のハイライトかもしれない。
今日のハイライトが「ちゃんと温まった」なの、地味すぎて逆に安心する。

寝る前。
今日を振り返る。

・大事件:なし
・小事件:靴下の違和感(未確認)
・成果:生存
・反省:特になし(そもそも何もしていない)

結論。
今日も、何も起きなかった。
……はずだったのに、なぜか疲れている。

まあいい。
今日も生き延びた。
それだけで、たぶん合格だ。

明日も、できれば何も起きませんように。

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