第47話 誇示(知っている者は遊ぶ)

(A4正式稿)
最初に壊れたのは、街じゃなかった。
空気だ。
音が軽い。
爆発でも警告でもない。
「鳴らす必要あった?」って思う起動音が、上から降ってきた。
住宅街の外れ。
道は狭い。
建物は近い。
なのに、人がいない。
避難した気配もない。
最初から、配置されていない感じだ。
「……あー」
思わず声が出る。
「これ、完全に“用意された場所”だな」
返事はない。
代わりに、屋根の上が光る。
装甲。
過剰。
無駄に曲線が多い。
放熱ラインが、見せびらかすみたいに走っている。
立っているのは、女だった。
姿勢が軽い。
戦場に立つ人間の重心じゃない。
「逃げないんだ?」
明るい声。
楽しそう。
「えらいえらい」
「褒められても困るんだけど」
視線を切らさずに言う。
「普通に、逃げ場なかっただけだし」
女は笑う。
本当に、面白がっている顔だ。
「だよね」
「ここ、逃げる前提じゃないし」
その言い方。
その断定。
――ああ。
こいつ、もう“終わり”を知ってる。
「派手だね」
周囲を見回す。
「近所から苦情来ない?」
「来ないよ」
即答。
「未来だと、ここ無いし」
次の瞬間、地面が抉れる。
直線的。
速い。
でも、雑。
避ける。
狙ってない。
たまたま、当たらなかっただけ。
「おっ」
女が声を上げる。
「今の、いい動き!」
「評価シートあるなら後で回して!」
二撃目。
さらに派手。
さらに近い。
建物が一つ、まとめて崩れる。
中身はいない。
ちゃんと、いない。
「効率いいでしょ?」
女は言う。
「邪魔がないと、気持ちいいんだよ」
気持ちいい。
この状況で、その感想。
「君さ」
女が、少し身を乗り出す。
「思ったより普通だね」
「悪かったな」
息を整える。
「普通代表で来てます」
「でもさ」
女は首を傾げる。
「普通のわりに、当たらない」
視界の端で、文字が揺れた。
【未登録反応】
【補正:低】
すぐに消える。
読ませる気がない表示。
「勝手に見るなよ」
「見るでしょ」
軽く言う。
「知ってる未来と違うと、楽しいし」
次の一撃。
距離が詰まる。
速い。
重い。
避ける。
偶然みたいに。
女が笑う。
目が、完全に輝いている。
「あ、これ」
「想定外だ」
――来た。
この反応。
「有名人?」
聞いてみる。
「まあね」
女は、否定しない。
「名前出すほどじゃないけど」
【個体識別候補:F-2】
【参照名:――――】
伏せられたまま、消える。
「……はいはい」
小さく息を吐く。
「察した」
女は、楽しそうに肩を回す。
戦う前の動き。
でも、緊張はない。
「今日はさ」
「確認だけ」
「何の?」
「君が」
即答。
「どれくらい“ズレてるか”」
次の攻撃は来ない。
代わりに、距離だけが詰まる。
「ね」
女が言う。
「次、どうする?」
「どうするって……」
口を開きかけて、止まる。
そのとき、女が笑った。
「まあいいや」
「続きは、次で」
背中の装甲が光る。
離脱準備。
見せるための動き。
「次は、もっと近くでやろ」
「せっかくだし」
跳躍。
派手な音。
静かになる。
壊れたのは、街だけ。
俺は、その場に立っていた。
息が荒い。
手が痛い。
「……あーあ」
空を見上げる。
「知ってるやつほど、
 やること雑だな」
でも。
次は“確認”じゃ済まない。
それだけは、
身体の方がもう分かっていた。

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