「正月三日、一人は意外と忙しい」

正月三日。
一人暮らしの部屋は、驚くほど静かだった。

正確に言うと、
静かすぎて逆に落ち着かない

エアコンの動作音が、
「ちゃんと生きてますよ」と
定期的に自己主張してくる。

カーテンを少しだけ開ける。
正月の光は、
やたら健康的な顔をしている。

「今日は何もしなくていい日だ」

そう思った瞬間、
脳内で誰かがメモを取り始める。

――何もしない
――何もしない理由を考えない
――そもそも「何」とは何か

うるさい。

キッチンへ行く。
冷蔵庫を開ける。
中身は、年末に「これで数日は大丈夫」と思った構成だ。

結果、
どれも「決定打に欠ける」。

正月三日の冷蔵庫は、
選択肢があるようで無い

パンを焼く。
トースターが鳴る前に、
スマホを触ってしまう。

SNSには、
「今日から仕事です!」
「初売り行ってきました!」
という報告が並ぶ。

どれにも参加していない自分が、
なぜか少し誇らしい。

参加していないだけなのに。

コーヒーを淹れる。
粉を多めに入れたせいで、
味がやたら濃い。

「まあ、正月だし」

この万能な言い訳は、
三日目でもまだ使える。

部屋に戻る。
床に置いたままの本が、
「読まれる予定だった顔」をしている。

予定はあった。
実行されなかっただけだ。

ノートPCを開く。
閉じる。
開く。
閉じる。

正月三日は、
起動テストだけで一日が終わる

時計を見る。
まだ午前十時。

「時間、進んでる?」

疑ってしまうが、
カップの中のコーヒーは確実に減っている。

現実は、
こういう形でしか証明できない。

昼になり、
「何かちゃんとしたものを食べよう」と思う。

結果、
冷凍食品が一つ消える。

ちゃんとした、とは。

午後、
特に何も起きないまま時間が過ぎる。

でも、
何も起きないことに
少し慣れてきている自分に気づく。

夕方、
部屋が少しだけ暗くなる。

「ああ、今日はちゃんと終わるんだな」

正月三日。
何もしなかった。

でも、
余計なこともしなかった。

それはそれで、
かなりの成果だと思う。

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