『世界を支えているのは俺だが、誰もそうは思っていない』
午前3時12分。
インフラエンジニアは、この時間に目が覚めるとだいたい当たる。
スマホを見る前から分かっていた。
今日は、俺が悪いことにされる日だ。
案の定、Slackが燃えている。
炎上ではない。静かな地獄だ。
「なんか遅くないですか?」
「エラーっぽいの出てます」
「ユーザーからクレーム来てます」
——“っぽい”で世界を揺らすな。
監視画面を見る。
全部、緑。
CPU:元気
メモリ:余裕
ディスク:空腹知らず
なのにサービスは死んでいる。
「……あ?」
ログを見る。
何も書いてない。
ログという存在が、今日に限って沈黙を貫いている。
まるで「今回は関わりたくない」と言わんばかりだ。
朝会。
「昨日、何か変更ありました?」
空気が止まる。
「……ないです」
「……触ってないです」
「……たぶん仕様です」
“たぶん仕様”という言葉を考えた人間を、俺は許さない。
「じゃあ原因は?」
「インフラですかね」
——出た。
万能ワード:インフラ。
通信が悪くてもインフラ。
設定ミスでもインフラ。
誰かが眠いのも、たぶんインフラ。
結局、原因は
「3年前に退職した人が残した謎の設定が、月に一度だけ牙を剥く」
という、呪いだった。
コメントにはこう書いてある。
> ※消すと怖いので触らない
じゃあ書くな。
直した。
再起動した。
祈った。
世界は、何事もなかったかのように動き出した。
Slackに流れるメッセージ。
「直ってよかったです!」
「助かりました!」
「原因わかりました?」
——わかってる。
俺だ。
いや正確には、
俺が“最後に触った人間”だから、俺だ。
俺は今日も学ぶ。
- インフラは壊れない
- 人の期待が壊れる
- 直っても評価されない
- でも止まると世界が終わる
それでも、明日も俺は言う。
「特に問題ありません」
——問題しかないがな。
