『破産したのに、人生が続いているんですが』#4
第4話 「大丈夫?」って聞かれるのが、一番困る
破産したことは、
基本的に人に言わない方がいい。
これは経験則だ。
言っても空気が良くならない。
でも、
言わないと不自然になる場面がある。
例えば――
友人からのLINE。
「最近どう?」
この一文が、
人生イベントを全部背負って殴ってくる。
どう、とは。
何が、どこまで、
どう、なのか。
私はしばらく画面を見つめた。
既読をつけずに。
破産した直後の人間が
一番苦手なもの、それは
雑談だ。
「元気だよ!」
→ 嘘になる。
「元気じゃない」
→ 説明が必要になる。
説明を始めると、
だいたい相手は
「え? 大丈夫?」
と言う。
ここだ。
ここが詰みポイント。
「大丈夫?」
この質問、
答えが存在しない。
大丈夫って、
どのレイヤーの話だ。
身体?
生きてる。
精神?
まあ、動いてる。
社会的信用?
消滅。
全部まとめて
「大丈夫?」
って聞かれると、
人はフリーズする。
私は意を決して返信した。
「まあ、ぼちぼち」
便利すぎる言葉だ。
ぼちぼち。
希望も絶望も含めて、
とりあえず会話を前に進める魔法。
だが、相手は逃がしてくれなかった。
「なんかあった?」
あったよ。
フルサイズで。
でも、
ここで全部出すのは違う。
私は悩んだ末、
一部だけ出すことにした。
「ちょっと、色々あってさ」
……色々って何だ。
破産は、
「色々」で済ませていい量じゃない。
だが、
詳細を言うと
相手の目が変わる。
同情か、
気遣いか、
距離の再計算。
どれも、今はいらない。
しばらくして、
返信が来た。
「そっか。無理すんなよ」
無理。
するかどうか以前に、
もう選択肢が少ない。
でも、
そう返すのも違う。
私はスタンプを送った。
うなずいてるやつ。
感情を
画像に委ねるフェーズに入っている。
スマホを伏せて、
天井を見る。
破産した人間が
一番困るのは、
誰かに心配されることだ。
怒られるより、
詰められるより、
心配の方が、
ずっと刺さる。
「大丈夫?」
「何かあったら言ってね」
言えたら、
こんなに静かに詰んでない。
私は思った。
破産って、
社会的にはイベントなのに、
会話では扱いづらすぎる。
重すぎる。
でも、
ドラマチックでもない。
派手な不幸なら、
まだ語れる。
事故とか、
病気とか、
失恋とか。
破産は、
説明が制度寄りすぎる。
「色々あって」
「手続きして」
「今は落ち着いてる」
感情が、
全部途中で消える。
スマホがまた鳴った。
今度は、別の人から。
「今度ご飯行かない?」
……行けるか。
金銭的にも、
精神的にも、
難易度が高い。
でも、
断り続けると
人間関係が削れる。
破産すると、
人間関係も
自然減する仕様らしい。
私は返信した。
「また落ち着いたら!」
落ち着くって、
いつだ。
破産後の人生に、
「落ち着く」
という状態は
用意されているのか。
分からない。
でも、
世界は今日も続いている。
友人は心配し、
広告は前向きで、
私は返事に困る。
破産したのに、
人生が続いている。
どうやらこれが、
しばらくの通常運転らしい。
