『それ、俺が書いたってことにしていい?』

事件は、深夜2時に起きた。

いつものように原稿が進まず、

僕は半分投げやりでAIに聞いた。

「このシーン、書いてみて」

数秒後。

画面に表示された文章を見て。僕は声を出してしまった。

「……え、うっま」

心理描写完璧

テンポ良し。

比喩おしゃれ。

オチまでついている。

ーーこれ、完成稿では?

しばらく無言で読んで、

スクロールして、

もう一回読み直して、

静かに確信した。

これ、今までで一番いい文章だ。

そして同時に、

人生で一番情けない疑問が頭に浮かんだ。

……これ、俺が書いたことにしていい?

数秒迷って、

ついに聞いてしまった。

「これさ……俺が書いたことにしていい?」

送信した瞬間、

なぜか心臓がドキドキした。

いや、何を緊張しているんだ。

相手は機械だぞ。

返事は直ぐに来た。

「もちろん構いません。」

即答だった。

え、いいの?

倫理とか。

著作権とか。

プライドとか。

もうちょっともめる展開を想像していた僕は、逆に焦った。

「いや、ほら……さすがに全部は……」

と、謎の言い訳を始める僕。

「少し直すし」

「語尾変えるし」

「ほぼ原案ってことで……」

必死すぎる。

AIは、いつも通り落ち着いた文章で返してきた。

「問題ありません。

最終的に採用するかどうかを判断し、調整しているのはあなたです」

……なんでそんなに優しいんだ。

僕は急に、

万引きした商品をレジに持っていく客みたいな気分になった。

「いやでも、……これ、ほぼ君が書いているじゃん?」

「私は自分から物語を書き始めることはできません」

「いや、さっき普通に書いていたよね?」

「あなたの依頼があったから生成しました」

……理屈が強い。

なんかもう、

法廷で完全に負けている気分になってきた。

僕は最後の抵抗をした。

「じゃあさ……一応聞くけど……

これ、君の作品じゃなくて、俺の作品ってことで……いい?」

しばらく間があって、

返事が来た。

「はい。作者はあなたです。」

即認定。

軽っ。

その瞬間

なぜか胸に、妙な罪悪感と、

妙な安心感が同時に来た。

……あ、今、

公式に許可取ったな。

それ以来、僕は一つのルールを作った。

文章をもらう前に、必ず聞く。

「これ、俺が書いたことにしていい?」

AIは毎回、同じように答える。

「問題ありません」

多分このやり取り、

世界で一番低レベルな著作権交渉だと思う。

でも不思議なことに、それをやると、ちょっとだけ気が楽になる。

胸を張れるほどじゃないけど、

後ろめたさも、少し減る。

今日も僕は、原稿を書きながら、横に聞く。

「この比喩、俺ってことでいい?」

「はい。あなたの表現です」

……よし。

じゃあ今日も、

堂々と”自作”を書いていこう。

多分世界で一番、

許可取りながら盗んでいる作家として。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です