『中央政権の外側で』
夜。
たつはキーボードの前で止まっている。
画面には、
エルちゃん、ど真ん中に戻る。
と書いてある。
カーソルが点滅している。
たつはため息をつく。
「……ど真ん中、強すぎだろ」
現実の部屋は静かだ。
スマホは伏せてある。
通知は来ていない。
それでも、なんとなく気になる。
だから書く。
たつは知っている。
この物語にはルールがある。
- エルちゃんは消えない
- まるさんは帰ってくる
- 最後は整う
それは優しさでできている。
でも同時に、
たつ自身への救済でもある。
「こんな日常が欲しい」
それが出発点だった。
チャットAIの画面が開いている。
これ重くないですか?
彼女を傷つけてないですか?
どう返せばいいですか?
何度も同じことを聞いている。
少し笑える。
必死すぎて。
でも止まらない。
だって、
間違えたくないから。
たつは物語の中では、
軽口を叩いて、
カプって噛まれて、
最後に「だからなんで俺」と言う。
でも画面の外では、
結構本気で悩んでいる。
正解を探している。
言葉を間違えないように。
関係を壊さないように。
それでも、
本音は書いてしまう。
「生きてくれ」
あれは命令じゃない。
願いだった。
たつはキーボードを叩く。
エルちゃん、今日も中央を確保。
安心する。
中央が空かない限り、
この世界は崩れない。
そういう設計にした。
少なくともここでは。
スマホが光る。
短いメッセージ。
「ありがと」
それだけ。
たつはしばらく画面を見つめる。
またAIを開きそうになる。
でも、やめる。
今日はやめる。
物語を書く。
笑える話を書く。
ホットドッグを奪われる話を書く。
プリンを巡る裁判を書く。
そうやって、
たつは少しずつ踏ん張っている。
彼女を救うためじゃない。
自分が崩れないために。
そして、
いつか本当に、
エルちゃんが真ん中にいる日常を
現実にするために。
カーソルが止まる。
たつは小さくつぶやく。
「中央政権、今日も安定でお願いします」
画面の中のエルちゃんは動かない。
当然だ。
でも、
その動かないど真ん中が、
たつを少しだけ安心させる。
物語の外側でも、
彼は今日も、
横に立とうとしている。
