第二話『ニャルソック発動中』
エルちゃんは、窓際にいる。
ど真ん中ではない。
今日は警備日らしい。
カーテンの隙間から、外を凝視。
「来てる?」
まるさんが小声で聞く。
「たぶん鳩」
「やっぱり」
エルちゃんの背中が、うっすら盛り上がっている。
しっぽ、ぴく。
「鳴かないの?」
「今は監視モード」
「かっこいい」
カタ、と窓の外で羽音。
その瞬間。
「にゃッ」
低い。
短い。
戦闘ボイス。
「出た」
「完全にニャルソック」
エルちゃん、窓枠に前足をかける。
毛がないのに、なぜか毛を逆立ててる雰囲気。
「たつくん」
「ん」
「わたしもあれくらい堂々とできたらなぁ」
「鳩に?」
「違うわ」
少し間。
まるさんはソファに座ったまま、膝を抱えてる。
今日は出勤前。
メイクはまだ半分。
「今日、ちょっと嫌な席なんだよね」
「あー」
「前も来た人」
「重いやつ?」
「うん。観察してくるタイプ」
エルちゃん、振り向く。
じっと、まるさんを見る。
「監視されるの苦手なんだよね」
「わかる」
「嘘ついてる顔とか見抜こうとする感じ」
「仕事だろ」
「わかってるけどさ」
エルちゃん、窓から離れる。
ゆっくり。
トコ、トコ。
まるさんの前に来る。
見上げる。
「なに」
カプ。
「いった!」
「警備対象変更」
「そっち!?」
「鳩より近い脅威」
「私が?」
もう一回。
カプ。
さっきより軽い。
「……なにそれ」
たつ、ソファの背に肘をかける。
「気にしすぎ警報だろ」
「出てる?」
「鳩並みに」
まるさん、ふっと笑う。
「わたし、そんなに分かりやすい?」
「家ではな」
エルちゃん、今度はたつの足に来る。
カプ。
「なんで俺」
「均等配分」
「仕事してないのに噛まれる理不尽」
「存在が理屈っぽい」
「否定できない」
少し空気が軽くなる。
まるさん、深呼吸。
「観察されてもさ」
「うん」
「わたし、消えなきゃいいだけだよね」
たつ、少し考える。
エルちゃんを見る。
エルちゃんは、また窓の方を向いている。
「まあ」
「まあ?」
「帰ってくる場所あるやつは、消えないだろ」
「それ雑だけど、嫌いじゃない」
外で、鳩がもう一度羽ばたく。
エルちゃん、即反応。
「にゃー!」
今度は高い。
催促っぽい。
「ごはんか」
「戦いより飯」
「現実主義」
フード袋を持つと、
エルちゃん、瞬間移動。
さっきまで警備してたのに。
「切り替え早」
「優秀」
カリカリの音。
部屋が一気に生活に戻る。
まるさん、立ち上がる。
「よし」
「戦ってくる?」
「営業してくる」
エルちゃんが食べながら、ちらっと見る。
その目は、たぶんこう言ってる。
“戻れよ”
まるさん、玄関で靴を履く。
「たつくん」
「ん」
「今日もベッド、取られてるかな」
「確定」
「じゃあ、取り返しに帰る」
ドアが閉まる。
静か。
エルちゃん、食後の水を飲んでから、
当然のようにベッドへ向かう。
そして。
ど真ん中。
完全固定。
「王、帰還」
小さく喉が鳴る。
鳩はもういない。
でも警備は続く。
越えない関係と、
ど真ん中の猫。
今日も整っている。
