第一話『ベッドの王様、エルちゃん』
エルちゃんは、ベッドを占領している。
ど真ん中。
スフィンクス特有の、あの神みたいな座り方。
腕を折りたたんで、完全支配。
「そこ俺の枕なんだけど」
無言。
目だけがゆっくり動く。
「エルちゃん〜」
まるさんがしゃがむ。
「ちょっとだけ詰めてくれないかなぁ?」
エルちゃん、顔を少し近づける。
カプ。
「いったぁ!」
「だから距離」
「まだ触ってないよ!?」
「圧が強い」
まるさん、頬を押さえてベッドの端に腰かける。
「たつくんさ」
「ん」
「スフィンクスってなんでこんなに偉そうなんだろ」
「毛がない分、威厳で勝負してるんだろ」
「なにそれ」
エルちゃん、ゆっくり伸びをする。
ベッド全面使用。
「完全に王様」
「俺たち、同居人ポジだな」
まるさん、ごろんと横になる。
エルちゃんの足元ギリギリ。
「今日ね」
「うん」
「営業スマイル、ちょっと疲れた」
エルちゃん、じっと見る。
「で?」
「お客さんにさ、“ほんとのまるちゃんってどれ?”って言われて」
「重いな」
「ね」
少し静かになる。
エルちゃんが、ゆっくりまるさんの腕に近づく。
カプ。
「いった!」
「即裁き」
「まだ何も言ってないのに!」
「考えすぎ警報」
まるさん、天井を見る。
「どれがほんとなんだろね」
たつ、ベッドの端に腰掛ける。
「全部じゃない?」
「え」
「営業も、今のも、噛まれてるのも」
エルちゃんが今度はたつの足首をカプ。
「なんで俺」
「公平主義」
まるさん、くすっと笑う。
「エルちゃん厳しい」
「このベッドの支配者だからな」
エルちゃんは、またど真ん中に戻る。
当然の顔。
まるさんが小さく言う。
「たつくん」
「なに」
「わたし、ここではちゃんと“わたし”かな」
少し間。
たつ、エルちゃんを見る。
エルちゃんも、じっとこっちを見る。
「まあ」
「まあ?」
「今、ベッド取られてても戻ってくる人だし」
まるさん、少しだけ笑う。
「それ基準?」
「重要だろ」
一瞬だけ、やわらかく。
「大丈夫だよ」
エルちゃんが二人の間に移動する。
そして順番に――
カプ。たつ。
「痛い」
カプ。まる。
「いったぁ」
「承認完了か」
「噛むのが承認なの?」
夜は静か。
営業も理屈も全部置いて。
ベッドのど真ん中には、
裸の王様みたいなエルちゃん。
たぶん、
空気がちょうどいいときだけ、
噛み方が少しやさしい。
