二月、存在がギャグ

二月はおかしい。
いや、面白いという意味ではない。設計がおかしい。

まず日数が少ない。二十八日しかないくせに、体感は三十六日くらいある。
これは物理法則に反している。
「観測者が寒いと時間が遅くなる」みたいな補足がアインシュタインの論文に書いてあるなら今すぐ教えてくれ。

朝、起きる。
寒い。
「まあ二月だしな」と思う。
これで一日の七割は説明がつく。
残りの三割は「昨日夜更かしした自分のせい」だが、それも突き詰めれば二月のせいだ。夜が長いから夜更かしする。つまり二月が悪い。
完璧な論理だ。反論は認めない。

二月は免罪符だ。
眠い? 二月。やる気出ない? 二月。洗濯物乾かない? 二月。確定申告の準備してない? 二月。体重増えた? 服が厚いだけ。実質二月。
全部二月のせい。

会社でもこれは通用する。
「すみません、資料まだできてなくて……」
「まあ二月だしね」
「ですよね」
通った。二月、最強。

カレンダーを見るたびに腹が立つ。
一月と三月から一日ずつもらえば三十日になるのに、誰も動かない。日数配分を決めた古代ローマ人に文句を言いたい。七月と八月を連続で三十一日にしたのは、シーザーとアウグストゥスの自己顕示欲だ。二千年越しのパワハラで二月がとばっちりを食らっている。

しかも短いなら短いで、さっさと終わればいいのに、一日一日が重い。二月の一日は、一月の一・三倍ある。体感だが、体感こそが真実だ。科学的根拠はない。だが共感は得られる。共感は科学より強い。

そして二月は、何の前触れもなくイベントを投げつけてくる。

まず節分。豆を投げる。鬼を追い出す。
だが冷静に考えてほしい。鬼より寒さのほうがよほど脅威だ。
「寒さは外! 暖かさは内!」と叫びたい。

節分が終わった瞬間、街がピンク色に変わる。バレンタインだ。
昨日まで鬼のお面をかぶっていた商店街が、今日はもうハートまみれ。人間の感情はそんなに機敏にできていない。

義理。本命。自分用。友チョコ。逆チョコ。
なぜチョコレートにそんな社会的役割を背負わせたのか。カカオ豆はただ美味しくなりたかっただけだ。「義理」とか「本命」とか、カカオ豆の人生設計にはなかったはずだ。

私は結局、自分用を買う。しかも高い。普段三百円で買えるものが、リボンがついただけで千五百円になる。リボン代千二百円。どこの世界のリボンだ。
二月は言い訳がよく育つ月だ。

家に帰ると、暖房の前から動けなくなる。
これは怠惰ではない。生存戦略だ。ダーウィンもきっとそう言う。

布団に入る。出られない。
布団の中は二十五度。布団の外は十度。この温度差十五度は、もはや国境だ。布団から出るということは、温かい国から寒い国へ亡命するようなものだ。誰が好き好んで亡命するか。

二月は人間を試してくる。
根性とか、意志とか、そういう抽象概念を物理的な寒さで粉砕してくる。
「やればできる」? 嘘だ。二月はやっても寒い。
唯一有効なのは暖房の出力を上げることだが、電気代の請求書が怖い。命には代えられない。二月は財布にもダメージを与えてくる。全方位攻撃型の月だ。

「春はもうすぐ」と言う人がいる。
詐欺に近い。
春は名刺だけ先に渡してきて、本体はまだ全然来ない。社会人なら始末書ものだ。でも春は許される。なぜなら春だからだ。結局、季節は全部ずるい。

それでも二月は終わる。毎年ちゃんと終わる。
「やっぱりもう一周します」とか言い出さない。二月の唯一の美徳は、ちゃんと退場することだ。

何も成し遂げていなくても、二月を通過しただけで偉い。
RPGでいえば、二月は経験値の高いダンジョンだ。ボスは「寒さ」、中ボスが「バレンタイン」、雑魚敵が「乾燥」と「花粉の前兆」。クリア報酬は「三月」。地味だが、確実にもらえる。

だから今日も私は言う。
「まあ二月だしな」と。

それは諦めじゃない。
人類が編み出した、最強の防御呪文だ。
詠唱不要。MP消費ゼロ。クールタイムなし。

さあ、あと二十二日。この呪文で乗り切ろう。

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